愛すべき"怒りのご意見番":映画批評家、ピーター・トラヴァース

ソーシャルメディア・バブルな今、誰もが簡単に映画の批評を書いて多くの人に瞬時にシェアできる。友人の勧めも、評価の数もすぐわかるから、わざわざプロの批評家のレビューをチェックする必要もないと考える人たちも多いと思う。でもやっぱり頼れる専門家の意見も聞きたい。そんな時、私が必ずチェックするのはこの人、ピーター・トラヴァース。
日本にも素晴らしい批評家の方々が多くいるし、どの国にも映画のご意見番っているけれど、やっぱりアメリカには厳しく映画を評価する批評家たちが多い。やはり学問や文化、産業として成り立っているからだろうか、誰もが耳を傾ける様々なタイプの大御所が何人かいる。私は一応、映画批評学部みたいなところで、理解不可能の超難解な理論から映画を論じる(しかも英語で)なんていうこともして、辛うじて卒業はしたのだが、もっと庶民的な事象、たとえば映画がもたらす効能・効果というか、人や社会への影響とか、ビジネス展開などへの関心のほうがずっと強い。そういう広い視点で批評したり、また大衆的で誰にでもわかりやすく、加えて批評家本人が個性的、なんていう人たちに興味がある。

このファンキーな毒舌おっさんキャラ、ピーター・トラヴァースは、まさにそんな人。エンタメ&ゴシップ雑誌「ピープル」で活躍した後、現在は「ローリングストーン」誌でカリスマ批評家として映画を斬りまくっている。比較的自分と好みが似ているので、記事も読んでポッドキャストも観ている、さしずめ"トラヴァース・ウォッチャー"な私。彼は自分のお気に入りの監督、マーティン・スコセッシやティム・バートン、クエンティン・タランティーノ、アン・リーとか、あるいは気にいったインディペンデント映画系などは褒めまくるが、嫌いな監督No.1のマイケル・ベイについては、これでもかというぐらい酷評しまくる。彼が出演するポッドキャストには「Scam Bucket」といって、さしずめ「ゴミ映画をいれるバケツ」みたいな小道具があって、マイケル・ベイ監督作品が何作もこのバケツに入れられていた。「トランスフォーマー」シリーズなんて何回入れられていることか。最新作の「トランスフォーマー ダークサイド・ムーン」にいたっては、「Damn You, Hollywood」と題して、"こんな映画観に行くオマエら、そして4作目を作ってくれと願うハリウッドの業界人、そんな奴らも悪い!"と観客や業界まで非難している。本当に不機嫌なオヤジで笑える。作品そのものだけでなく、"映画会社から試写の知らせがないから、オレにはきっと観てほしくないんだろう"とか、どうでもいい個人的な文句を吐いたり。また自分のオフィスに出演者をよんで、ざっくばらんなトークもやってみたりして、やりたい放題。

とはいえ、彼の批評は映画やDVDを宣伝する際、もっとも多く引用されているらしい。やっぱり。自らをFilm Criticではなく、もっと広義の、よりエンタテイメントの意味の強いMovie Criticと称す所以か。独断はあるものの、彼の批評からは本当に映画を愛する気持ちが伝わってくる。でなければあんなに怒れない。小難しい言葉を使うことなく、読みやすく聞きやすく、批評のポイントを押さえていて、かつ恐れることなく大衆に自分の意見をしっかり言う。こんな愛くるしく、文句の多いおっさんキャラの批評家を私は愛して止みません。

ちなみに、彼が高く評価した最近の映画(4つ星中3つ半以上)は、「ハリー・ポッターと死の秘宝パート2」「カーズ2」「X-MEN:ファースト・ジェネレーション」「ツリー・オブ・ライフ」(ブラッド・ピット主演で話題)「ミッドナイト・イン・パリス」(ウディ・アレン監督)。うーん。わりと既に世間の評判の良い映画に星を多くつけている気がするけど、やっぱり最後のダメ押し、この人の評価があってこそ観に行こうと思ってしまう。
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