星3つ!天才少女シアーシャ・ローナンの最新作は16歳の殺し屋:「ハンナ」

以前にもこのコラムに書いたが、私の大注目のティーン女優の一人、シアーシャ・ローナン。「つぐない」の演技で13歳にしてアカデミー賞助演女優賞にノミネートされたという天才少女が、最新作「ハンナ」で再び「つぐない」のジョー・ライト監督とタッグを組んだ。他にも「プライドと偏見」「路上のソリスト」など英国らしい歴史モノやヒューマンドラマを得意とするこの39歳の監督が、フォーカス・フィーチャーズの製作で、今までとは毛色の違うサスペンスアクションをどう撮るのか興味津々だった。

ハンナ(シアーシャ・ローナン)は、雪深いフィンランドの森の中で父親エリック(エリック・バナ)と二人だけで暮らしてきた。16歳になるまで父親以外の人間を知らず、高度な格闘技術と数ヶ国語を操る諜報教育を父親から受け、「殺人マシーン」として育てられる。そんなハンナは成長につれ外界への憧れを抱く。父親は「出て行くならマリッサ・ヴィーグラー(ケイト・ブランシェット)に殺されるか、お前が彼女を殺すかだ」と反対するが、ハンナの決心は変わらず。父親との再会を約束して、一人でフィンランドを出る。ハンナの存在を知ったCIA捜査官マリッサはある理由で執拗に彼女を追う。そして、ハンナはマリッサとの戦いの中で、驚きと魅力に満ちた外の世界を知ると同時に、自らの運命の鍵を握る様々な事実を知ることとなる。

もう、純粋に面白かった。シアーシャ・ローナンは期待通りで、まさに彼女の為の映画。透けるような金髪と白い肌、細長い手足を持つ繊細な風貌の彼女が、体力と演技力を同時に要求される難しい役を見事に演じている。「つぐない」のような「静」の演技とは全く違い、走って走って走りまくり、猛スピードの車の底にへばりつき、素手やナイフや拳銃で敵を倒すなど、無垢な外見からは全く想像のつかないフィジカルな面を見せる。その一方で、外界の多様な景色、音、普通の人々と初めて接触した時の絶妙な表情を、驚きと喜び、好奇心と不安など、複雑な感情を上手に使い分けバランス良く見せる。うーん、末恐ろしい。

ストーリーの根幹には、「赤ずきん」「人魚姫」といったグリム童話の要素があるそう。抑圧あるいは庇護されていた主人公が憧れを持って知った世界は、残酷な運命をもたらす、というダークで物悲しいフェアリーテールの筋書きだ。その結末までを、音楽監督初挑戦のケミカル・ブラザーズのビートに乗せ、ロード・ムービーの体裁を用いてフィンランド、モロッコ、スペイン、ドイツと移動して行き、景色が移り変わるようにハンナの変化も描いていて、観ている我々も飽きない。グリム童話をデフォルメした形の、新しいComing of Ageモノ、新しいガールパワー映画とでも言おうか。こんな凝った構成が可能なのは、英国演劇界の優秀な人材が多く関わっているからなのか、単なるアクションてんこ盛りの作品に終わらないところが良い。逆に、シンプルでコテコテのマッチョなアクション映画を期待している人には、もしかすると物足りなく、多くの複線や要素を盛り込みすぎて冗漫に思う人もいるかも。

ケイト・ブランシェットの怪演も印象に残る。常に洗練された緑色のスーツやブランドものの靴を身につける彼女。英語圏では緑色とは"嫉妬"を意味する色のようで、green with envyという言葉もあるぐらい。それを意識したのかわからないが、仕事での保身の為にハンナを抹殺しようとする冷徹なCIA捜査官マリッサは、渦巻く嫉妬に取り憑かれる悪役の継母とか魔女のよう。元同僚で同じ任務に携わったエリックへの憎しみの中にある微妙な感情や、子供を生まない選択をしたマリッサの母性への歪んだ固執が、ハンナ抹殺計画の表向きの理由の下に見え隠れしていて表象論的にも興味深い。

アンヌ・パリローの「ニキータ」(1990)、ナタリー・ポートマンの「レオン」(1994)のように、今後のキャリアを左右するような殺人マシーン、ハンナ役。シアーシャ・ローナンの今後がかなり楽しみだ。

8月27日(土)新宿ピカデリーほか全国公開
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
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