もしも冤罪で妻が逮捕されたら?ラッセル・クロウ主演、「スリーデイズ」

「クラッシュ」でアカデミー賞を受賞したポール・ハギス監督の作品。他にも「ミリオンダラー・ベイビー」や「硫黄島からの手紙」など、脚本家として成功し関わった作品の多くがアカデミー賞の常連となるハギス監督が、ラッセル・クロウに自ら出演交渉し、フランス映画「すべて彼女のために」の完全リメイクを手がけた。フランス版は、新しいフレンチ・ノワールの流れを汲むような作品だったし、ヴァンサン・ランドンとダイアン・クルーガーの夫婦役も気に入っていたので、ハギス監督とラッセル・クロウの骨太コンビがハリウッド版をどう作りこむか楽しみだった。

愛する妻子と共に幸せな毎日を過ごしていた大学教授のジョン・ブレナン(ラッセル・クロウ)。しかしある朝突然妻のララ(エリザベス・バンクス)が上司の殺害容疑で逮捕されてしまう。その後3年間、一人息子を育てつつ、妻の無実を証明する為に奔走する。が、不利な証拠が提出され、殺人罪は確定。長い収監生活に絶望する妻を前に、もう他に術の無いジョンはある決心をする。生活の全てを犠牲にし、緻密な計画を練って妻を脱獄させようというのだ。計画を練る過程で、脱獄のプロ、デイモン・ペニントン(リーアム・ニーソン)に会い様々なアドバイスを受けるが、大事なのは冷酷になる覚悟だと釘を刺される。タイムリミットは3日間。この1度きりのチャンスにジョンはすべてを賭ける。

脚本家出身の監督だけあって、さすがツボを心得ている。普通の男が妻や息子の為に自分を奮い立たせて法に立ち向かい、どう変化して目的を達成させられるか?いう話の主軸をしっかりと立たせている。緩急のつけ方が上手く、2時間強の長さでも最後まで飽きない。観客は、ジョンが執念深く計画を練り行動に移していく様子を一緒に追い、一方で彼の苦悩に感情移入できる。フランス版に登場しない人物やプロットもあるものの、ほぼフランス版に忠実な話の展開。ただフレンチ・ノワールのようなダークな印象はなく、ハリウッドらしいアクション満載で、多くの人に観やすいサスペンスドラマだ。テンポも速く、最後まで一気に観れてしまうので、監督の過去のアカデミー受賞作品と比べれば、良い意味での"つっかかり"というか、心を鷲摑みにされるような喫驚はない。そこは個人の好みだろう。 

意外かもしれないが、以前からラッセル・クロウは極限状態でのラブストーリーが似合うと思っていた。男臭くてマッチョ、無口でむさい印象のせいか、男性社会のハードボイルドな主役を演じることが多いけれど、「プルーフ・オブ・ライフ」でメグ・ライアン演じる人妻への許されぬ思いを抱きながらその夫をテロリストから助ける役、「グラディエーター」でも愛する妻と息子を無残にも殺され復讐を誓う役など、究極の選択を迫られる中で密かに愛に生きる姿が印象的。今回もミッションに燃える姿に切なさと微かなセクシーさを感じさせ、女性には(というか私には)グッと来る。女性には少なからず「私をここから救い出して!」というレスキュー・ストーリーへの願望があるから、そこをくすぐられるかも。妻役のエリザベス・バンクスも熱演だが、ラッセル・クロウとのケミストリーが若干薄い気も。しかし、忘れがたい瞬間がいくつかある。彼女が"私がやったのよ"と嘘をつき、もう自分を忘れてと、夫に目で訴える抑えた演技。この瞬間に二人の愛と信頼関係の全てが凝縮されていて、印象的なシーンだった。

印象的なシーンといえば、ジョンと年老いた両親、とくに父親との関係。ジョンの計画をうすうす感づくも何も言わない無口な父親が、ジョンを気遣う姿に涙が溢れる。フランス版でも同じシーンで泣き、この冤罪と脱獄計画が、当事者だけでなく周りの家族も巻き込むのだという辛い現実を実感。社会派のハギス監督だけに、状況証拠だけで有罪確定にされる現状に疑問を投げかけているのか、偶然の積み重ねで犯人となってしまう恐ろしさと善悪だけでは判断できない人の行いの是非を問うている。もし自分や身内が冤罪で捕まったらどうするだろうか?

  9月23日(祝・金)丸の内ルーブル他全国公開 
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