独り身の辛さが身に沁みる...。英国の巨匠マイク・リーの傑作「家族の庭」

現代のイギリスを代表する映画監督マイク・リー。「秘密と嘘」「ヴェラ・ドレイク」など一般の人々の悲喜交々な人生を描き、玄人好みのカンヌ映画祭の常連でもある。監督と同世代の60代の夫婦とその周りに集まる人々の日常を描いた本作は第63回カンヌ映画祭でプレミア上映され、第83回アカデミー賞オリジナル脚本賞にもノミネートされた。成功してもイギリスを拠点に淡々と自国の人々を題材に撮り続ける名匠が、またひとつ代表作を生み出した。

トム(ジム・ブローベント)は地質学者、妻のジェリー(ルース・シーン)は医学カウンセラー。休日にはガーデニングを楽しみ、美味しいワインと料理を味わう穏やかな日々を過ごす夫婦には、30歳になる弁護士の息子ジョー(オリヴァー・モルトマン)がおり、なかなか結婚しないの気がかり。ジェリーの同僚メアリー(レスリー・マンヴィル)は気ままな独身生活を送る中年女で、酔うと男運のなさを嘆き、何かと夫婦のもとにとやってくる。その他、トムの友人で職業安定所で働き孤独な人生を嘆くケン、妻に先立たれた無口なトムの兄ロニーなど、トム&ジェリーの夫婦の周りに集まる様々な人々の春夏秋冬を丁寧に描いていく。

円熟の演技に秀逸な脚本、匠の演出と、どれも素晴らしくて前評判どおりの秀作。自分の居場所を見つけられない寂しい人達が、満ち足りた生活を送る夫妻の元にやってきて、彼らと対話するうちに承認や賞賛や愛情をもらい、そこに自分の居場所を発見する。
なかでも不安症でお騒がせなメアリーは非常に興味深いキャラで、演じるレスリー・マンヴィールは抜群に良かった。既にこの役で主演女優賞をいくつも受賞しているが、表情の作り方、声のトーンなどの役作りが素晴らしい。男運もキャリアもなく、人生失敗ばかりの年増女。お酒が好きで意志が弱く、常に他人からの受容を求めていて、自分に自信と責任が持てない。滑稽でイラつくが共感することも多く、なぜかずっと心に残るキャラだ。

どうやら巨匠は、リハーサルやキャラクターづくりに長い時間をかけるらしく、そのルールはかなり厳しいという。比較的同じ俳優を何度も使い、一緒にストーリーを作っていくそうで、互いの信頼が厚い。その結果からか、コラボレーションワークのクオリティが高く、"あ・うん"の呼吸が見て取れる。

マイク・リーの映画はいつ観ても、真実味に溢れ、時に辛辣に時に優しく人間を観察した様子が伺える。ダメ人間も多く出演。辛いばかりの人生だからこそ、少しある幸せを大切にしようというメッセージがある。観慣れた映画とは違って捉えがたく複雑なだけに、観客自身に判断が委ねられる。それが私がマイク・リーを好きな理由。意外なエンディングも監督らしい。日本でも固定ファンが多いが、公開を待ち望むファンの期待を裏切らない良作だ。(★★★★☆)
-アメリカの著名な映画情報・批評まとめサイト「ロッテン・トマト」では:92点

11月5日(土)より 銀座テアトルシネマほか全国順次ロードショー
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