ヴィンセント・モリセット監督が語る、シガー・ロスの『INNI』製作秘話

モントリオールを拠点に活動するマルチメディア・アーティストで、映画監督でもあるヴィンセント・モリセットは、すでにインディー界では一目置かれる存在だ。アーケイド・ファイアやシティ・アンド・カラーとタッグを組み、独創的なプロジェクトを展開してきたモリセット。そんな彼をさらに有名にしたのは、アイスランドのポスト・ロック・バンド、シガー・ロスのコンサート映画『INNI』だろう。

2008年のツアーの一環として、英ロンドンのアレクサンドラ・パレスで行なわれた2晩のライブを収めた『INNI』は、ユニークな "ロックメンタリー" だ。多くのコンサート映画は観客に臨場感を与えるが、この『INNI』はステージの上へと連れて行ってくれる。接写や抽象的なイメージを組み合わせることで、1つ1つのシーンが夢のような、非現実的な作品に仕上がっているのだ。

同作はバンドのライブCD&DVDのセットで、すでに昨年秋に欧米や日本でリリース済み。<Spinner>ではこれに先駆け、モリセット監督にインタビューを試みた。

Spinner: 『INNI』の製作にあたり、どれくらい作品を作り込んだのですか?
ヴィンセント・モリセット監督: かなりおおっぴらにやっていたよ。彼らが僕に接触してきたとき、そこには切迫感があった。ツアーは終了間近で、バンドが今後もツアーを続けるかどうかわからなかったんだ。彼らは僕に、ライブをどんな感じで描くか聞いたので、僕はかなり直球なアイデアを提案したんだ。僕は記録が欲しかった。生々しくて、彼らが大きなライブをするときに持つ、ピュアなエネルギーの記録がね。

僕は、時代を超えて存在するものを作りたかった。時間や場所といったものをあいまいにして、撮影後にはそのイメージを僕自身の手であれこれ変えるとも彼らに言った。僕はバンドのメンバーに、自分がニール・ヤングに多大な影響を受けていると言い、僕たちも同じことができるんじゃないかと話したんだ。ニールはジム・ジャームッシュ監督の映画『デッドマン』の音楽を担当したとき、ギターを手にスタジオに入り、最初に映画を見てからそのイメージをもとにあれこれ作っていったんだ。それはとても即興的で、不完全で、さらにオーガニック(本質的)なアプローチの仕方だった。僕はシガー・ロスの音楽がとてもオーガニックなものだと思っていたから、職人技を感じさせるような何かを作りたかったんだ。

S: 『INNI』では、とても見事で、細かい部分まで披露したショットがあります。そういったアングルで撮るのは、どれくらい難しかったですか? また彼らが「バンドから離れるように」とあなたとスタッフに言ったこともありましたか?
モリセット監督: カメラの中には隠し撮り目的のものもあったので、バンドのメンバーからはほとんど見えていなかったと思うよ。僕らは1台をマイクとヨンシー(ヴォーカル)に装着したんだけど、それから2、3分後にカメラは投げ捨てられてしまった。彼にとって、カメラは彼の気を散らせるものだったんだね。そのせいでヨンシーはオーディエンスの姿があまりよく見えなかったわけだし。でもそれ以外のカメラは彼らの目につかないようにしたから、問題なかったよ。大事なのは、彼らが我々やカメラの存在を忘れ、最高のパフォーマンスをするってこと。少なくともショーの間は、我々スタッフは透明人間だったのさ。

シガー・ロス『INNI』

S: あなたは映画監督として、独特のビジョンをお持ちですし、(アーケイド・ファイアの)『Miroir Noir』や今回の『INNI』にも、彼ら自身のユニークな美的感覚が感じられます。あなたのスタイルは、自分がドキュメンタリーを作っているバンドの音楽に、どれだけ影響を受けているとお考えですか?
モリセット監督: 『Miroir Noir』にはかなり長い時間をかけたので、異なる素材をつなぎ合わせたような感じもしている。ライブの模様とか、レコーディングの合間に撮られたものなどだね。だから(「Miroir Noir」は)美的感覚にあふれているんだと思う。

次に『INNI』だけど、シガー・ロスの音楽は僕にとって夢のような感じなんだ。作品自体はかなりストレートなライブ映画だね。僕たちはヨンシーやゲオルグ、キャータンが演奏しているのを見ていたけど、そこには夢やまたは時空を超えた場所につながっているかのような、独特のクオリティーがあったんだ。

S: 今後、一緒に仕事をしたいアーティストはいますか?
モリセット監督: 自分が再びこういった音楽映画をやるか、今はわからないな。アーケイド・ファイアとシガー・ロスを手掛けたのは、アクシデントみたいなものだったから。もちろん、それらは素晴らしいアクシデントだったけどね! 彼らが僕のお気に入りのバンドであることは間違いない。一緒に作品を作ることができて、とても光栄に思っているよ。何か面白いことが起これば、(映画製作も)ありうるだろうね。
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