「人脈は必要ない、度胸のみ」片っ端から飛び込み営業・・・風俗店の広告営業


前回からの続き

「鮫」の生い立ちについては深くは知らない。ただ、ヤツが在日韓国人であることだけは知っていた。
出会いは最悪だった。



何の後ろ盾もなく 東京にのこのこやって来た俺(柳田)の食い扶持は、エロ風俗店の広告をとることだった。
難しい話ではなかった。フーテン生活で...自暴自棄だった俺は、関西でも似たような仕事をしていた。
人脈は必要ない。"開き直れば..."誰でもできる。要は、度胸だ。

今の風俗事情はまったく知らないが、当時、東京狙い目は池袋西口、大塚のピンサロ。
五反田、目黒の雑居ビルに入り込んでいるソフトSMクラブ。
コレらを、片っ端から飛び込み営業を行う。
何軒かまわるうちに...男性社員の三行求人広告ぐらいはもらえる。

もちろん「前金(先払いのこと)」だ。
ヤツらも百戦錬磨だ。
俺が、持ち逃げする人間か?否か?すぐわかる。
ヘタを打つこと。不義理をかますことは、死活に直結する。


求人広告は、一行幾らの世界だ。
屋号、連絡先、伝えたいこと。最低でも、二行はかかる。
1回からでも受け付ける事は可能だが、まずそんな店はどこにもない。
突発的な三行広告は、誰かへのスパイ行為と見なされ非常に危ない。
一文字を倍の大きさにすれば 縦横2マスの合計4マス。
存在感も一気に増す。『飲食』『急募』『募集』『給与』にはじまり『接待』『接客』『個室』。
『コンパニオン』『S即金・日払い可』と字数が増せば売り上げも自然とあがる。

だが、油断は禁物だ。「鮫」は、その最たるヤツだった。

場所は、大阪なんば。昔、新歌舞伎座があった裏手通り。
関西でもっともカビ臭い「裏ビデ」「SM」「ゲー」の密集エリアだった。

いつもの約束時間。
夕方4時半きっちりにやって来るゲイボーイの店長が、その日に限って来ない。
携帯電話がまだ普及していない時代だ。連絡しょうがない。
だが、鼻の奥を突き上げる悪臭に耐えられるリミットは5分だ。
何をやっているか?わからない... 不道徳極まりない店の扉の向こう側には、何ら不思議ではない。

「鮫」とは、この時代に出会った。
「鮫」の「オンナ」からの紹介だった。
「鮫」の「オンナ」は、「SM倶楽部」を手広く仕切っていた。
店は「M専(マゾ男専門のSM倶楽部)」。
「鮫」の「オンナ」は、裸一貫SM嬢から成りあがった経営者であった。
「鮫」は、明らかに自分より年増のオンナのヒモであり、極つぶしだった。
そんな、どうしょうもない男との会話のはじまりは...何処からとなく聞いた新商売の相談だった。 「ペットのブリーダー」「ダイヤルQ2」「性感・ニューハーフマッサージ」
...どれもこれも旬を過ぎた、塀の上を走るようなモノばかりだった。

「H(鮫の日本人帰化名)さん!...三行記事原稿、いくらでも書きますが、多分アカン(商売は当たらない)と思います。正直、もう一回、じっくり考えられた方がいいと思いますよ」

「今さら、何を言うてますの?柳田さん!カネなら、ほら!...ちゃんと前金で用意してますんで、頼みますわ!」

「では、予約専用の電話番号からお願いします」

皮のバックから カーボン紙を取り出しカビ臭い湿気た休憩場で原稿を書く。ビビってペンを走らせると、相手(鮫、Kのこと)は必要以上にアップをかまし始め、なめてかかり、挙句、恐喝まがいの事をふっかける。

そんな時、俺はバカ丁寧な言葉を使いながらも、さも頭がイカれた無神経な男を装いながら、事務所にある固定電話を無断で借りる。

「鮫」が俺に伝えた電話番号が、さっき書いたばかりの番号と照合すればOK。
つまり、ツーツーと"話し中"なら問題はない。


だが、20回に1度ぐらいの割合で...なぜか?...電話が通じる事がある。
「もしもし、そちら...? えっ?新大阪ニューハーフ専科...??申し訳ございません!ちなみにそちらの電話番号は...」

「鮫」は、わざと間違った電話番号(内線番号)を教え、ミス掲載させ、迷惑料という題目で定価の倍返しを狙う意地汚い男だった。

(つづく)

文/柳田光司

【著者プロフィール】
1968年生まれ。本業は『放送作家』
現在『あの頃の、昭和館』という映像・音声ブログを配信中
その中の音声コンテンツ『現代漫才論(仮)』では企画~出演~編集もやっています。
これまで、いろいろ照れがあり...何ひとつ外に出していませんでしたが...。
今はもう、そんな自分がアホらしくなり 精力的にアウトプットしていきます。
Twitterアカウントは@anokoro_no
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