夭折したヒップホップの匠、D.L その「凄味」をラッパー、ダースレイダーが解説




今年5月に急逝が発表されたプロデューサー/ラッパーのD.L。90年代後半に、ニューヨークからまさしく「黒船」として日本のヒップホップ・シーンに現われたBUDDHA BRANDのメンバーとしてセンセーショナルに登場し、"人間発電所"や"天運我に有り(撃つ用意"、アルバム「病める無限のブッダの世界 〜BEST OF THE BEST(金字塔)〜」など数々のヒップホップ・クラシックを生み出した。以降も「THE ALBUM」などのソロ作のリリースやILLMATIC BUDDHA MC'Sとしての活動、レーベル「EL DORADO」の立ち上げ、日本語ラップの名作をコンパイルした「HARD TO THE CORE」の制作など、多岐にわたって数多くの影響を音楽シーンに与えてきた。

今回は編集長を手がけた「月刊RAP PRESENTS『RAP!!』」でのインタビューなどを通して、生前のD.Lと親交の深かったラッパーのダースレイダーに、彼が影響を受け、印象に深く残っているD.L作品を、彼の視点から解説して頂いた。


☆BUDDHA BRAND/"FUNKY METHODIST"
☆BUDDHA BRAND/"ILLSON"


僕が最初に買ったブッダの音源は「黒船」だったんですが、そこに収録されていた"FUNKY METHODIST"と"ILLSON"は、とにかく聴いたし、本当に衝撃を受けましたね。

まず"FUNKY METHODIST"は、『ファンク』っていう概念を日本でしっかりと形にしてる作品の代表だと思うんですね。この曲は、ビートと言葉のリズム感やタイム感がとにかくファンキー。特にD.Lさんのラップはスゴくなめらかなフロウで、D.Lさんが推してるファンクやソウルのレコードと同質な雰囲気を、ヒップホップとして形にしてるなと思うんですよね。そういう部分が"人間発電所"よりも個人的に好きな部分で。他にもファンクを形にした代表例はスチャダラパーの"FUN-KEY-WORD"があるけど、その二組がタッグを組んで"リーグ・オブ・レジェンド"(スチャダラパー「THE 9TH SENCE」に収録)を作ったのは必然だったのかなって思いますね。

"ILLSON"は、D.Lさんの言ってた「病める」「病んでる」っていう「ILL」の概念を曲にした曲だと思うんですね。そういう概念やアティチュード、俺らはこういう奴らだって言うアプローチを曲に出来るのが、やっぱりD.Lさんの凄さだなってCQさん、NIPPSさんのラップ、DJ MASTERKEYさんのDJも勿論スゴいんだけど、そのブッダというチームを、フロントマンとして総合プロデュースして、「ブッダは何がスゴいのか」を明確にプロデュースしていた、当時のDEV LARGEは名プロデューサーだったと思いますね。

両曲とも、いま聞いてもトラックがとんでもないですね。サンプリングネタの選び方は勿論、音の配置、音の鳴りがとにかくスゴかったし、当時のブッダはNY帰りっていうのが惹句があったけど、NYにもこんなスゴい音は無かったと思う。これは世界に冠たるヒップホップマスターピースだと思いますね。

この二曲に出会ったお陰で、この道(ヒップホップ)は間違いないんだなって事を分からせて貰えたと思います。


☆D.L/"盲目時代"

個人的にD.Lさんと知り合ってから、色んなお話をさせてもらったんだけど、その内容がラップになると、"盲目時代"になるんだな、と思うんですよね。

D.Lさんの話はかなり哲学的だったり、宇宙的なスケールだったりするんだけど、それはD.Lさんがそういう思想を持ってたからだと思うんですよね。それを曲にもしてるのがD.Lさんらしいなって。D.Lさんは理想が高かったし、その理想と、望んでる世界にはなってない現実とのギャップは、D.Lさんにとってはストレスだったのかなって思うんですね。その現実と理想の齟齬と戦ってたのが、DEV LARGE時代で、その齟齬に諦念を持ってたのがD.L時代なのかなって。その諦念を抱えてからのD.Lさんの心理状態が形になってるのが"盲目時代"だったんだと思います。元々はDJ KENSEIさんのミックス(『ILL VIBES VOL.2』97年)に入ってた曲だけど、その頃からイズムはずっと変わってないって事だと思うし、それをソロとしてリリースしたのは、D.Lさんの中でも普遍的な曲だったのかなって思います。特に、D.Lさんが亡くなられてから"盲目時代"を聴くと、改めてその重みを感じますね。


☆BUDDHA BRAND/"DEAD FUNKY PRESIDENT"

D.Lさんはスゴいラッパーだったし、素晴らしいリリックを書いて来たけど、D.Lさん個人としてはラッパーというよりも、プロデューサー/トラックメイカーだっていう自己認識を持たれてたと思うんですよね。それはブッダのアルバム「病める無限のブッダの世界 〜BEST OF THE BEST(金字塔)〜」が出た時に半分がインスト曲で、更にインストだけの盤「DEV LARGE プレゼンツ:病める無限のインストの世界」も出した事からもそう感じて。そういったヒップホップ・インスト曲の中でも、"DEAD FUNKY PRESIDENT"はとにかくファンキーな一曲ですね。世界中のヒップホップ・インストの中でも、屈指のファンキーさがあると思いますね。D.Lさんの作ったビートはどれも格好いいんだけど、その中でもこの曲が醸し出す「匂い」みたいなモノが、本当に素晴らしいですね。


☆TOJIN BATTLE ROYAL/「D.O.H.C」

TOJIN BATTLE ROYALっていう福岡のラップ・グループとD.Lさんは仲が良くて、そのグループが14年ぶりにアルバムを出すっていう時に、僕も参加させてもらったんですが、その経緯はD.Lさんからいきなり電話がかかってきて、『ガヤ(注:重層的に聴こえるようにする囃し声のようなもの)を入れてくれ』って。
それでレコーディングに行ったら宇多丸(RHYMESTER)さんもRECれてたんですね("フィジカル要らん兵 feat. 宇多丸")。それで宇多丸さんがボーカル・ブースに入ってる時にD.Lさんが到着して、何も知らない宇多丸さんに対して、D.Lさんがモニターで「今のラップいいよ!士郎(宇多丸)!」って言って、宇多丸さんが「え!コン(D.L)ちゃん?」ってビックリするっていう。そうやって、何も言わずにいきなりディレクションするのがD.Lさんっぽいなって(笑)。その時、ガヤだけじゃ悪いからダースもなんか録ってよっていう乱暴なオファーがあって、それで出来たのが"1192"って曲だったんですね。唯一、D.Lさんにディレクションしてもらった曲だったんで、、スゴく思い出に残ってますね。"五獣塔 D.O.H.C."には千目多移嘆っていう新人ラッパーが入ってるのも最高でしたね。正体がバレバレだけど。でも、それをやってるD.Lさんはとにかく楽しそうだったし、音楽を生み出す現場にいるのがやっぱり好きな人なんだなって思いましたね

D.Lさんはとにかく音楽以外にも興味や知見が広い人で、根本敬さんの「黒寿司」って漫画を強烈に推してたり、同じ掲載誌(「Front」)でD.Lさんが連載してた記事(「The World Of Buddha Brand」)も読めないんじゃないかってぐらい文字が細くて、どちらも極北な記事だったり。その意味では、D.Lさんは審美眼だったり美意識に、本当に独特の感性があったと思いますね。それはD.Lさんが音楽を作る際に手法の中心になっていたサンプリングで、どの音を選ぶか、どのビートを選ぶかっていうセンスにも通じてたと思うし、アートワークのチョイスの部分でも、それは反映されてたと思いますねただ、それがいわゆる「ヒップホップ的なモノ」って考えられる部分とは大きく逸脱してる場合もあったんだけど、「だけどそれもヒップホップなんだ」っていうのがD.Lさんのイズムだったと思いますね。そのイズムには影響を本当に受けました。

構成:高木"JET"晋一郎
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