『レヴェナント:蘇えりし者』坂本龍一が語る映画音楽という仕事 「映画音楽にルールはないんです」


第88回アカデミー賞で見事3冠に輝いた『レヴェナント:蘇えりし者』では、その映画音楽を日本が誇る音楽家・坂本龍一が担当した。これまで数々の映画音楽を手がけ、作品のクオリティーを音楽という側面から高めてきた名匠は、「映画音楽にルールはないんです。根本的には音楽そのものにルールはない、と言ってもいいと思いますよ」という境地にいたっているという。「映画ならではの興奮や刺激があります」という坂本に話をうかがった。


――主演のレオナルド・ディカプリオが本作でアカデミー賞の主演男優賞を受賞しましたが、彼の演技を観ていかがでしょうか?

5回目のノミネーションですよね? 素晴らしい演技だなと思って観ていました。この映画以前は、ディカプリオはいい演技をする俳優とは、悪いけれど思っていなくて(笑)。僕はそこまでのファンではなかったんです。『タイタニック』(97)の印象があまりにも強すぎて、40歳を過ぎてもお坊ちゃん顔で、あまりにもかわいい顔だと演技面では評価されにくい。彼は、顔で損してきたんじゃないかと思いますよ。でも今回のこの演技を観て、瀕死の重傷を負うという設定で、すごい演技ができるんだなと感心しました。監督も高く評価していますし、僕自身の評価も変わりましたよ。

――その彼の熱演を受けて、作曲面でインスピレーションを受けましたか?

彼がまったく動けない状態で眼前で息子を殺され、そして息子と別れて雪原を這って遠ざかっていくという重要なシーンがあって。そこは音楽的にも重要なシーンだと思いました。彼の演技の強度と言いますか、それに見合う音を付けたいと思いましたね。

――このような映画音楽の仕事は、ほかの作曲の作業と比べて、どういう点が違いますか?

自分のために作る音楽とどう違うか? ですよね。まずは、映画製作の一部に関わることは、とても楽しいですよ。いつもかなり孤独で、ひとりとかふたり、いや、基本的にはひとりでやっている時間がほとんどなので。映画は本当に何十人、何百人という人間が動いていきますから、普段は得られない興奮がありますよね。そこは大きく違うと思います。



――イニャリトゥ監督との衝突はなくはなかったそうですが、それでも作業は楽しいですか?

イニャリトゥのようなものすごい才能があって、いろいろなことを深く考えていて、知識も膨大にある人と接しながら何かを作っていくということは、ほかでは得られない刺激があります。僕も負けてはいられない。丁々発止でやらなくちゃいけないと。映画をひとつ作るというのは、本当に膨大な知識と見識がないとできない。あれだけの製作費をハリウッドで引っ張り出してくるというのも、並大抵でできることじゃないですから、そこには雄弁で人を説得するいろいろなスキルが要るでしょう。そんな人たちとやりあい、ひとつの作品を作りあげる作業はとても刺激的で、楽しくもあります。

もうひとつ、僕にとっての大きな刺激は映画の内容です。今回、レヴェナントのような映画を頼まれなければ、19世紀前半の、まだ地図もはっきりしていないアメリカの中西部についての知識を得ることもなかった。あの時代、それらの場所でどうやって人間たちが生きていたかも知らなかった。つまり知らない場所の知らないことを深く知ることができるんです。毎回、題材が違うでしょ? ある意味、無理矢理与えられるわけですよね、お題を。それは、なかなか自分では課すことが出来ない。映画ならではの興奮や刺激があります。

――数々の映画音楽を手がけれ、映画音楽は"こうあるべき"、みたいな持論はありますか?

ないです(笑)。映画音楽にルールはないんです。根本的には音楽そのものにルールはない、と言ってもいいと思いますよ。案外ルールだらけでしょ? 通常の音楽制作にはルールがたくさんあるけれど、映画音楽にはルールは必要ないし、もっと言えば、映画にとって必ず音楽が必要であるとも限らない。音楽がないいい映画もたくさんあるじゃないですか。僕が最近観ている映画の中で、良いなあと思う作品には音楽がないものが多い。職業として映画音楽をやっている立場としては、「どうなのかな」って思いはありますが、この傾向はしばらく続くのではないかと思います。


映画『レヴェナント:蘇えりし者』は絶賛公開中



(C) 2015 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved.

■参照リンク
映画『レヴェナント:蘇えりし者』公式サイト
foxmovies-jp.com/revenant/

■今月のAOL特集
美女絢爛!第88回アカデミー賞レッドカーペットが豪華すぎ【フォト集】
続きを読む